Qawwali三昧とトラックアート三昧、つまりはパキスタン🇵🇰イベント三昧でブログ書くどころじゃないくらい忙しかった夏。こっちにもしっかり記録しておきたい気持ちもありつつなんですが、まぁ、取り敢えず別所に書き散らかしはしているので、いんしゃっらそのうち纏めよう。あくまでいんしゃっら。
この記事への必要最低限の背景を書いておくと、色々なご縁により、いくつかのQawwaliイベントでヴェール(vel:おひねりを花びらのように撒くヤツ)の回収をやらせて戴いて以来、カゥワーリ楽団の、曲そのものに付随する、曲以外の色々なところに着目するのがこれまで以上に面白くなってしまって。
どこかにも書いたけど、子供のころから、戦隊ものでも赤とか青みたいな主役よりも、目を引かない名脇役が大好物なおいら的には、わりとそういう周辺情報を執拗に見てニヤニヤするのが楽しくて楽しくて。
そちらにがっつり興味が行っている今のうちに、そして、なかなか冷めやらない熱がアツいうちに、丁度よい参考動画を見つけたので、動画と共に書いていってみよう、という、Qawwali傍系記事、です。
ていうか、偏愛が過ぎて異様に長くなってしまったので、お忙しい方はブクマしといて後でゆっくり見てね♥
Qawwaliの演奏って、乱暴に大別すると、
- 本来的(?)な聖者廟などでのイベントの際に行われるもの
- いわゆる演奏会やコンサート、みたいな任意の会場で行われるもの
みたいな2タイプに分かれる。どちらでもおひねりは付きものだけど、個人的には前者の雰囲気を見るのが好き。
加えて、素晴らしい演奏をして当たり前な、引く手あまたで、最初から高額なギャラも見込めてしまうような大御所のもので見るよりも、中堅どころな楽団の現地での演奏の方が、おひねり視点みたいな傍系な好奇心から見るにはむしろ、情報量がめちゃくちゃ多い気がする。
まだまだ伸びしろもあり、野心も強く、且つ、実力もあって、しかも、都度の演奏が日々の糧ともより密着してそうな気がするからだ。まさに今回来日したBadarたちのような。
ということで、サンプルは敢えて、今回6年ぶりに来日したBadar Ali Khan / Bahadur Ali Khanの兄弟楽団の現地でのパフォーマンス。
いくつか興味深いライブ動画はあったんだけど、多数の動画を右往左往してもとっちらかるので、主には1点でいいかな。もうひとつ次点で、その視点で見るのに好きなヤツあるから、そちらも併せて貼ってはおくけど。
badar ali khan bahadur ali khan qawwal - YouTube
5分未満、と、 Qawwali の1曲通しての動画としてはさほど長くもないこの動画。だけどホントにおいらのまだまだ薄い知識の範囲だけでも、相当あげつらって書いていける。
まずは会場。ラホールはData Darbarのサマーホール。サマーはsummerではなくsama。単語の意味として厳密な理解は出来てないんだけど、今回の日本公演のタイトルにもなってたMehfil-e-samaは「讃歌の集い」的なヤツのよう。讃歌?うーん、それだけでも言い切れないのが実際のところだけど、そんなニュアンス?
2017年にラホールを訪れた時、実は、まさにこのホールの隅っこで、まさに上の動画のようなスタイルのMehfil-e-sama(だったのかな、あれも)を見た。
「動画のようなスタイル」というのは、そのスタイルを知らずにいきなりこの短い動画だけ見てるとそのポイントも容易に見過ごしてしまえるのだが、特定の楽団がじっくり演奏するのではなく、複数の楽団が短い持ち時間で次々に入れ替わって演奏していくスタイル。さながらカゥワーリ歌合戦。
恐らくは各楽団にとっては、限られた持ち時間で自分たちのパフォーマンスを存分にアピールして、より多くのおひねりをもらい、顔を売る。上手く行けばどこかに呼ばれるようになって次に繋がっていく、わりと大事な登竜門的イベントなんじゃないかと思う。
さて、映像の中の出来事について追ってこうか。文章クッソ長くなってるけど、動画1回見てから読む?読んでから見る?読みながら見る?お好みでどうぞ!
この映像も、最初の30秒くらい、よく見ると舞台の下でゴソゴソしてる集団がいる。これはBadar Ali Khanたちの前に演奏していた楽団が、自分たちの持ち時間中に撒かれた自分たちの分のおひねりをまだかき集めてるところと思われる。
で、一旦カメラがあらぬ方向に行って再び楽団の方に向いた頃、ようやくおひねり回収の完了した前の楽団員たちが舞台を後にする。
さて、ここからがBadarたちのホントの本番。いや、とっくに演奏は始まってるのだけど。
…と、舞台を横切り舞台上の若手楽師に紙幣を渡すおぢさん、画面が見切れてるので推測だが、恐らくはおひねりばら撒き用に、高額紙幣を小額紙幣に換金しているものと思われる。
若手楽師はどうやら、コーラスと手拍子だけではなく、演奏の間中、随時、そういった役割も担っているらしい。というか、換金係だけでもない。ばら撒かれたおひねりを回収するのも彼らなのだ。それはもうちょっと後から存分に見ることが出来る。
換金おぢさんも一人ではなく、あちらこちらでお札の受け渡しをしているようなのだが、若手楽師以外のそういった人たちは、どこに所属しててどういうシステムで動いてるのかは、おいらにもまだ、今ひとつ解らない。会場によりけりだったりするのかな。
…と、いよいよばら撒き開始。わりと豪快。
ここも今ひとつ具体的に説明出来るような理解には至ってないのだが、カゥワーリの時のおひねりは、楽師たちに向かってのみ撒かれる訳ではない。
この映像でも、景気よくばら撒く偉そうな人たち同士がお互いに向かってばら撒き合う様子も見られる。なんなら楽師に尻向けて、でも明らかに楽師たちの歌を口ずさみつつ、興に乗った風情で、偉そうな人たち同士でばら撒き合う。
が、その楽師の演奏中に撒かれたおひねりは、撒いた際の対象者を問わず、演奏している楽師のものになるようだ。
すると今度は舞台上で新たな動きが。楽師の後列で手拍子をしていた若手楽師の一人が立ち上がり、舞台を降りていく。程なくどこからか持ってきた数枚の紙幣と引き換えに、別の紙幣の束を持ってまたどこかへ向かう。会場のどこかから換金要請でもあったのか。
若手楽師の離席中に、手渡しおひねりもやってくる。ばら撒くのはあくまで場の盛り上げの一手法なだけであって、常にばら撒かなければならない訳でもない。ばら撒き好きのおぢさん自身も、ばら撒く一方、気持ちよさそうに一緒に歌いながら楽師に手渡しもしている。
ちなみに、Sabri Brothersの古い英国公演の動画では、在英パキスタン人オーディエンスたちは全員、舞台前に行って楽師たちに上品に両手で手渡しをしてた。
動画に戻ろう。いいタイミングでカメラが客席の方を向くと、舞台とは相当離れた所にばら撒かれたおひねりをかき集める数名が映る。舞台を降りて換金屋になってた若手楽師も、そのまま舞台に戻らずにかき集めている。
カメラが再び舞台を向いて程なく、換金楽師の黄色いクルタの腕が舞台に向かってニュッと映り込む。舞台上の別の若手楽師も、既に換金楽師が向かってきているのに敏感に反応しており、後列からまた、小額紙幣の束を引き換えに渡す。かき集めている間に更なる換金要請でもあったのだろう。
換金若手楽師くん、一旦舞台上に戻るが、座ったかと思うと後列の先輩楽師に何かを言われ、また舞台を降りる。今度は舞台正面で既に床を埋め尽くしているおひねりをかき集めはじめる。
面白いのが、曲が終わりにさしかかり、テンポが下がる頃には、別のおぢさんが舞台の縁に積もっているおひねりを床に払い落としている。これは恐らく、この、入れ替わり立ち替わりな演奏システムに限ってはキモになる作業なんじゃないかと推測する。
時間がくれば否が応でも舞台上は次の楽団と入れ替えになる。舞台上の楽団が入れ替わってしまったらもう、舞台上のおひねり回収は不能になってしまう。なので、動画冒頭30秒のとおり、次の楽団と演奏を交替しても暫くは床で、払い落とした自分たちのおひねりを拾い集めるのであろう。
というか、実は冒頭30秒の、前の楽団による舞台下のおひねり回収シーン、どうも回収作業で舞台正面の装飾やらマイクのラインやらが絡まったりなんだりでモタついていた風にも見えるので、最後まで見終えたら、もう1回最初から見てみると味わい深い。
Badarたちの舞台下での最後のかき集めまでは動画に治まっていないが、演奏終了間際、まだ歌が終わり切る前から既に、楽団員たちが腰を上げ始め、速やかなる撤収に向かい始めたところまではしっかり動画に収まっている。
現地で見た時も実際そうだったが、この各楽団の持ち時間は容赦なく決まっているようで、持ち時間が終わると皆、早くしろと追い立てられていたようだ。勝手に長々演奏を試みたりすら出来そうにない空気すらあった。
今回の彼らの日本公演でもたびたび、演奏の前後に主催の村山先生が「この曲も時間ぴったりに収めてくれた。さすがですね~。」みたいな話をされていた。
なるほど。その気になれば1曲あたり1時間越えレベルで演奏も可能なカゥワーリの楽曲。ゆるゆるダラダラ長々、なイメージしかなかったけれど、実は場に合わせての時間のコントロールっていうのも重要な技量の1つなのかもしれない。
いやー、たったの5分弱なのに、おひねり視点中心で書いたらこんなに情報量が多い、これはある意味、相当興味深い動画!
2017年のラホール訪問時にもつくづく思ったけど、外国人かつ異教徒、しかも女子が現地で「そのもの」を見る機会自体、正直、色々ハードルは高い。Data Darbarも、周辺には女性の姿もあったが、サマーホール内には、現地人であっても、女性なんていなかったしね。
なので、おひねり回収を女子が体験させてもらえるなんて、「よろ!」って言われても、なんとなく躊躇してしまうくらい、ニポンでの公演でなければあり得なかった。
お陰でおひねり周辺事情への興味もいや増すワケである。
そして2本目。こちらは演奏時間ももうちょっと長い。おひねりまわりの言及の大半は1本目で済ませてるので、こっちは貼るだけ…と思いつつ、いくつかだけかいつまんで。(とか言って長くなったらスイマセン)
Ya Farid Haq Farid qawwali in sivia sharif 15april2016 qawwal Badar Ali Khan p6 - YouTube
ここがどういう場所なのかはちょっと定かではないのだけど、動画タイトルにある固有名詞でググると、ラホールとラワールピンディの中間くらいの場所に、そういう名前の通りのある町が出てくる。
そして、その通りを辿っていくと、そこそこ大きめなダルバールがあるようなのだが、そこなのかどうかは定かではない。(でもダルバールの名前でググって行き当たったYouTube見るに、当たりな気もする。)
ここで1つ謎なのが、つい先日、パキスタン国内にあるチシュティ教団系の聖者廟はPakpattanにあるBaba Farid Dargahのみだ、という話を聞いたばかりなのだが、このSiviaという場所にある大きめのダルバールも「チシュティ」の冠がついているようだ。
「ようだ」というのは、ググるマップ上の名称が微妙に表記揺れっぽいので断定しきっていいのか、別物な単語なのかでちょっと自信が持ちきれない。しかし、この動画の曲名からしてまさにBaba Faridについての歌のようである。なので、やはり何かしらチシュティに縁のある会場なのではないかと推測する。
…というか、あれ?考えてみたらおいらがDargahとDarbarを混同してるせい?がしかし、少なくとも自分の知ってる言語ベースで説明を見比べると、どちらもShrineとか廟とかに行き着いてしまう。今更だけど、この2つの用語の厳密な違いって、何???
上の数段落、ちゃんと調べて正しく書き直そうと思ったけど、現時点では正解がいまひとつ解らないので、おいらの混乱した思考のまま残しておいて話を動画に戻そう。
この2つ目の動画は、既に何曲も演奏した後から始まってることもあり、サムネ見てるだけでもおひねり量が既に半端ないのは解るかと思う。動画のっけから、若手楽師の一人がガサーっとかき集めて、すごい量の束を楽団後列に持っていく、を何度か繰り返す。
で、しばらくすると紙幣を束ねはじめる。恐らくは、小額紙幣の束を作ってる。換金用に。曲が進行しても、カメラの端で紙幣を束ね続けている手がちょいちょい見えてくる。この子も、来日はしてないけど、しっかり歌える、声の綺麗な若手楽師なんだけど。
5分手前くらいからおひねりばら撒き風景は始まる。
見るからに他の聴衆と違う出で立ちの三人衆。どう違うのか、どう偉いのか、はさっぱり解らないのだけど、胡座のままポーンポーンと高々とおひねりを撒きはじめる。
撒いてる側から、側近らしき人が、三人衆の元に換金した札束を渡しに来る。そう、三人衆は自らの足で換金にすら行かない。あくまで胡座だけで全てが完結してる。それくらい偉いらしい。
6分過ぎには楽団後列の、今回繰り上げ来日を果たした若手楽師くんも、手拍子・コーラスの手を止めて、札束勘定に加わってる。
12分前後には三人衆以外からのおひねりも来るが、この人は楽師の前まで歩いて行って撒いている。楽師の前で撒いた後は、その足で三人衆の方に向かって三人衆の面前にも撒く。
12分半あたりでは後列楽師の元に来た換金の様子もしっかり見える。まとめたおひねり、まとめたと思ったら換金で渡してあっという間に再び撒かれる。換金ありき=高額紙幣が手元に増えてはいるものの、賽の河原か、みたいな気分にもなる。
その後はまた、三人衆の元に札束を持って渡しに向かう人がいるんだけど、単に換金代行にしては、その後、手にキスまでして尊敬の念を示してる様子なので代行じゃなくて手渡しおひねりだったのか。よくわからない。
ああ、やっぱり2本目についてもそこそこ長く書いてしまった。
おひねり周りに関してはそんな感じで、これらの動画を見て以来、書き留めたい!と思ってたコトは書き尽くせた気がする(スッキリ)。
ちなみに、超有名どころ…とまでは言えない中堅どころのはずなのに、この2本目の動画に限って現時点で427K Viewで1.6K Likeも行っててすごい。すごいんだけど、理由がはっきりわからない。この曲のフルライブパフォーマンス動画自体が微妙にレアなのかもしれない。
インターネットのお陰で、NusratやSabri Brothersのような過去の最高峰のアーカイブが見られるのも素晴らしいことだ。特にSabri Brothersはホントに大好きなので今後も更に見続けていくとは思う。沢山の貴重な動画が残されているのは本当にありがたい。しかし、残念ながら、彼らが新たなパフォーマンスをすることはない。
なので、Badarたちのように、現役でそれなりに実力もある中堅どころに実際に触れられた事によって、整えられた舞台上のパフォーマンス以外の、カゥワーリ文化を取り巻く背景や環境にも、彼らを通して更に目が届くようになったコトや、これから息長く成長を現在進行系で見守れる対象が出来たのは、この夏の大きな収穫、かな。
彼ら以外でも、現役で優れたカゥワールは自分なりに色々掘っていきたい所存だけど、色々な形で実際に触れられる、という貴重な機会を得られたBadarたちや、現在はBadarの楽団にいるけど、いずれは巣立つであろう若手楽師たちには今後も多少の判官贔屓はつきまとう、かなw
そして、そんな貴重な機会を(今回に限らず)設けてくださるみなさんに感謝の念が絶えないのであった。